「僕は一人の薄弱で敏感すぎる比類の無い子供を書いてみたかった。一ふきの風でへし折られてしまう細い神経のなかには、かえって、みごとな宇宙が潜んでいそうにおもえる。」
うつくしい散文で書かれた亡き妻への哀悼、原爆体験、生き残る者の苦しさ。自ら死を選んでいった原民喜の代表的作品集。人間の暗愚への強い怒りを内包し、狂気と絶望に対峙して人間としてほんとうによく闘った民喜。その人生はけっして愉快なものではありませんでしたが、些細な心象を描いた文章は、静かな夜明けのように、明るく澄みわたっています。内部においてとてつもなく強い人間の姿を手渡される一冊。大江健三郎さんによる解説も素晴らしい。
発行:新潮社
発行年:1973年
サイズ:文庫判
ページ:304p