才気溢れる硬筆な文章は別格の魅力がある。隙がなく、どこか人を寄せ付けないような気配さえ感じるけれど、その内をのぞいてみれば案外おちゃめでかわいらしい。日々の生活を飽きることなく注視し、観察しているからだろう、他者の言動や料理の描写もすばらしい。子どもの頃の出来事、病のこと、本のこと。これまでの人生と本の記憶を、寄せては返す波のように紡いだエッセイ集。俳人、小津夜景さんの輪郭が浮かび上がります。
「過去がまぶしいのは、それが風化する運命にあるからだ。そして思い出に胸が熱くなるのは、いくたびもの忘却をくぐりぬけ、いまなおそこに残っていることが奇跡よりほかのなにものでもないからだーー。」
発行:アノニマ・スタジオ
発行年:2024年
サイズ:四六判
ページ:256p