





完全な口語表現、というのは、今となっては珍しいものではなくなりました。すべてを手放しにして、けれど何ものかを決して捨てない、明るくユーモラスで残酷な短歌。瞬間のシーン、目にした光、束ねた言葉が駆け寄ってきます。
31年前に出版されたこの歌集にあれこれ手を入れたい気持ちをとどめて、その代わりにどこかのページに架空のキャンディの包み紙を挟めたという著者(当時かわいいお菓子の包み紙を集めていたという)。
紛れ込んだキャンディの包み紙が歌といっしょに時空を超えて届く、そのこと自体が穂村さんの短歌の手法を表しているように思います。
デビュー歌集、31年目の新装版です。
許せない自分に気づく手に受けたリキッドソープのうすみどりみて
サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい
シャボン玉鼻でこわして俺以外みんな馬鹿だと思う水曜
発行:講談社
発行年:2021年(初版1990年)
サイズ:A5判
ページ:144p
表紙絵/キャンディ包装紙:ヒグチユウコ
装丁:名久井直子