






“話し足りないというのは美しい感情だ” 冒頭のこの一文のために本書を手にする意味があるように思える、作者が中東在住時につくられた歌集。
静謐で儚いシーンが立ち現れては消える、短い映画を観ているような362首。まるで縋るように綴られた歌は、濁流に飲み込まれそうな私やあなたに手を差し伸べ、弱々しくとも確かな生のぬくもりを伝えてくれます。読み終わったあと、すこしだけ背筋がまっすぐになるその感覚は、磨かれた、というものかもしれません。
乾いた砂のような手触りの造本に綴じられた、うつくしい一冊です。
白に白かさねて塗れば天国は近く悩みと祈りは近く
優しいと言われるたびに欠けていく神殿がある、曇りの丘に
発行:青磁社
発行年:2020年
サイズ:四六判変型
ページ:246p