


社会主義政権下のルーマニアに生まれ、混乱したポスト社会主義の中で少女時代を過ごした著者のイリナ・グリゴレは、チェルノブイリ原発事故の放射能汚染の影響を抱えて生きることになる。「社会主義とは、宗教とアートと尊厳を社会から抜き取ったとき、人間の身体がどうやって生きていくのか、という実験だったとしか思えない。」と話す彼女は、人類学者となり日本に暮らす今、何を思うのだろう。魅せられた「雪国」の景色、日々の暮らし、幼いころの記憶、映画のシーン、夢の断片。時間や場所を、現実と幻想のあわいを行き来しながら綴られた自伝的エッセイ。母語ではない言葉によってこそ、語られることがある。
発行:亜紀書房
発行年:2022年
サイズ:四六判
ページ:256p