




みず、海、雨、川、水脈。この歌集にはずっと水が流れている。時に途切れ、澱んでしまったとしても、張り巡らされた糸のように遠くの地へ、もう会えなくなった人のもとへ、必ず辿り着く。やがて消えゆく言葉と記憶を繋ぎ止め、確かな現実の手触りを与える265首。
戦争体験者への取材から成る連作「つぐ」、亡命中のシリアの活動家への取材に基づく連作「繚乱」、尾張藩主の御巡覧と伴走した「知多廻行録」などを収録。「砂丘律」「千夜曳獏」に続く最新歌集。
この先は行ってはだめだ、知っている、記憶の廊下にくる、くろいみず
生き死にの平野の果ては瑠璃の街、月の光をときんときんに散らして
伝えねば、否、伝わるような苦痛であってたまるかの、花、渡さねば
もう何も奪わないでくれ 震わせて真冬に洗うひまわり、造花の
港まで肩にもたれて ああ、僕ら海や言葉になりたかったんだな
発行:短歌研究社
発行年:2025年
サイズ:四六判変型
ページ:198p