タイトルにある「レテ」とは、ギリシャ神話に登場する冥界の川のことで、その水を飲むとそれまでのことをすべて忘れてしまうという。
母との別れ、故郷の喪失を思い返し、少しずつ忘却し、また思い返すことを繰り返す。いつかすっかり忘れてしまったとしても、記憶は刻まれ、身体の一部となってその人を形成していく。忘れないようにと写真を撮っていた作者は、次第に忘れることを受け入れ、しかし消えることはないという確信めいた境地へと向かいます。
いつもの景色、身近なポートレイトの向こう側に見た、生と移ろいを捉えた写真集。粒子の粗い描写と鈍色の色彩が、見る人それぞれの記憶と共鳴するようです。
発行:TISSUE Inc.
発行年:2024年
サイズ:232×165 mm
ページ:136p