清水裕貴さんの初写真集。水辺を旅した写真、潮間滞に生きる架空の生物の話、水中から攫いに来る何者かとの会話、海水や黴で腐蝕させた写真で構成されている。短いテキストの中の"あなた"とは誰だろう。泥を掻いて川を遡上し、雑食性で足がなく、どちらかというと女性で、春になったら帰って来る"あなた"。水辺の風景は乾いた砂漠と重なり、また、体内や彼岸の風景のようにも見える。遠のいていく人の気配を追いかけるようにして捉えた不可思議な時空は、蓄積された過去をまとい、新しい風景をつくりだしています。
ある朝目覚めたらあらゆる家具が西へ数センチずれていた
夜の間に溜まった水が凍って
部屋全体が一枚の巨大な氷のプレートになり
それが朝陽に溶かされてずり落ちようとしているのだ
あなたは「このようにして湖は旅をする」と言って
部屋ごと崖下に滑り落ちた
発行:赤々舎
発行年:2023年
サイズ:200 × 300mm
ページ:136p