「うつむきがちなぼくにとって、この歌集は失くしたものへの愛惜を〈憤り〉にまでそだてる足場となるでしょう。」
焦土から復興へ向かう激動の時代に少年期を過ごした著者は、仮構の兄や姉、妹の眼差しをとおして戦争の光景を記す。戦争がなければなかったであろう出会いと離別を、死者たちが不在のままの村を、残されたものたちの終わらない戦争の記憶を、戦後の風化と解体の過程を。
そのリアリティと失われることのない瑞々しさに胸が苦しくなるほどです。怒りも、悲しみも、喪失も、計り知れない巨大な感情を背負い、風化していくその様を見つめ、現在に立ち続けている姿は美しい。いつまでも色褪せない、こころに厳しく朗らかに舞い降りる歌たち。それは遥かな時間を超えたしなやかさと優しさでできている。
第一歌集 『顔をあげる』(1961年)、第二歌集『前線』 (1976年)を併録。
闇をどのていど重ねたらあれくらゐの火ならかくせるとおもふ
内側をつきあげられて生えかはるそれってつまりこころのことか
後ろで押すはうにまはっていいかなあ励ますつてやくそくします
発行:短歌研究社
発行年:2023年
サイズ:新書判
ページ:256p