掴もうとすればパラパラとこぼれ落ちてゆく情景も、吐いても吐いても押し寄せてくる感情も、すべてが砂のようだ。忘れるためと、おそらくは留めるためにも綴られた。肌にあたる乾いた空気とは対照的に深く濡れた心がある。巧みな韻律と感度によって現れる甘美な光景が読む者の心に爪跡を残していく。
単行本の造本はほんとうに愛おしいものだったけれど、ポケットに入れて持ち歩ける大きさになった様子もまたうれしい。千種創一さんの第一歌集、待望の文庫化です。
骨だった。駱駝の、だろうか。頂で楽器のように乾いていたな
港には風をうけるかたち光をうけるかたち ここにいさせて
脳にこそ心はあって、でも胸が痛むのです。またラムネしましょう
別れたとき熱かったのに悲しみは冷えて河口のような光だ
発行:筑摩書房
発行年:2022年
サイズ:文庫判
ページ:272p