イギリス、コーンウォールの港町で船乗りとして働き、70歳になってから絵を描きはじめたアルフレッド・ウォリス。
彼がもっとも描きたかったものは、自身の人生であり、記憶であり、過ぎ去った時間でした。そしてその中核にいつもあったものは、船でした。
とめどなく発動される想像力は、けれども外に向かって無限に広がっていくようなものではなく、過去へ遡行し、内面へと収斂していきます。
ロマンティックな情感に溢れた船の浮かぶ海景、荒海をゆく船、灯台、港町の小さな家々など、記憶の中の光景が描き込まれた絵は、現代美術のなかには見つけられない素朴な味わいに満ちています。
生活を覆い尽くすように絵を描いたウォリスのその孤独な営為は、「人が絵を描くこと」の根源的な意味を問いかけます。
発行:みすず書房
発行年:2021年
サイズ:A5判
ページ:264p