「町はからっぽ、木陰にいても40℃はある。記憶のなかにしか存在しないひとに会うのには申し分のない一日だと思いますよーー」
7月最後の日曜日、リスボンの夏。灼熱の昼下がりに、男はまだ来ない待ち合せ相手を待っていた。暑さで歪んだ幻覚にも似た光景のなか街を彷徨い、23人の人びとと会い、一日の終わりにやっと待ち合わせ相手とめぐりあう、その一部始終。生者とも死者とも判然としない人びと、既になくなった友人や家族。現実と幻想、時間を超えてそれらの人びと逢瀬を重ねていく。彼らと交わされる会話が、ふんだんに登場するポルトガル料理の描写とともに体内へ染み込んできます。タブッキにとっては、物語という方法でしか祈りを唱える手立てがなかったのかもしれません。過ぎ去った日々、伝えたかった言葉。大きな喪失と寂しさを感じるのに幸せな心地がする、暑い夏の幻想譚。
発行:白水社
発行年:1999年
サイズ:新書版
ページ:182p