




年老いたマリアの独白で綴られる幼い息子と夫との幸福な日々。そして、やがて十字架の上で無残な死を遂げる息子の姿。なすすべもなくただ見守り、悲しみと怒りに満ちた悔恨渦巻く余生を送ったマリア。
彼女は、絵画に描かれる穏やかな表情とはかけ離れた、苛烈な情念をむきだしにした顔をしていました。自身の生涯の終わりに息子を見送った母としての胸の内を語り遺そうとするマリアの、その痛々しくも美しい姿が描かれています。「聖母」ではない「母」としてのマリアの姿を表出させた、静謐で果敢な物語。
「息子に起きた出来事が現実にならないよう、時間を押し戻すための夢見る力がほしい。今でなく、あのときでもないところへ行けさえすれば、わたしたちは心の安らかに老いていけるだろうーー」
発行:新潮社
発行年:2014年
サイズ:四六判変形
ページ:140p