





「あの人の不在はわたしの頭を水中に押し込む。少しづつ息がつまる。肺の中の空気が薄くなる。この窒息状態を通じてこそ、わたしはおのれの「真理」を再構成し、愛というものの「手に負えなさ」を準備するのである。」
繊細でストイックなバルトによる、恋愛の内的宇宙を開示するディスクール。恋する主体である「わたし」の体験をはじめ、ゲーテ・ニーチェ・ブレヒト・禅・ラカンを自在に引用しながら、彼ならではの断章形式によって非連続のテキストが繰り広げられます。
ここにはすでに恋愛においてのみではない、自己の内面のおおよその苦悩の真実が記されています。「恋愛」という諸相についてこんなふうに記述することのできる知性と言語を持ちながら、それでも苦しんだバルトの苦悩と思索の刻跡があります。
発行:みすず書房
発行年:2020年(初版1980年)
サイズ:四六判
ページ:384p