2011年3月、東日本大震災で津波の甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。その場所に移り住んだアーティストの瀬尾夏美さんは、日々変わりゆく町の風景、少しずつ変化していく人びとの感情、自らの思索を記録しました。
著者の言葉と、出会う人びとの言葉との境界は次第に曖昧になり、自他の区別なく緩やかに解け合っていきます。それは、真に何かと対峙していることの現れかもしれません。
震災から10年が経過する今年、未だ着地することができないままの感情にふわりと寄り添う瀬尾さんのことば。
あの時の記録として、ひとりひとりの営みの痕跡として、ひとりのアーティストの成長の軌跡として、大切に、長く読み継がれていくであろう物語です。
「ーー誰かに何かを語ろうとするその根元には、
どうしたってひとりにはなりきれないという、
弱さのようなものがあるだろう。
わかって欲しい、知らせたい、
きっと幸せになって欲しい。
声を震わせるそのか細い勇気は、
どこか希望に似てやしないかと、
私は思う。」
発行:晶文社
発行年:2019年
サイズ:四六判
ページ:360p