




彼女の文章に触れるたび、取り巻く時間の速度、手触りや湿度や匂いが近しく思え、とても安心します。深い悲しみや孤独の中にいて、それを誰にも咎められないこと。
〈南〉を訪れる直前で中断された、ビクトル・エリセの映画『エル・スール』の原作。映画では描かれなかった後半部、エリセが撮りたくても撮れなかった物語のクライマックスが明らかにされます。
父はなぜ沈黙のうちに閉じこもっていたのか。なぜ何も言わずに自死してしまったのか。
南への旅で彼女は父親の別の顔を知り、この旅によって彼女自身が変化していきます。憧れの父の死を契機にセビーリャへ赴いた少女の見た光景を描き出すとともに、地理的、文化的な北と南の和解というテーマを読み込むこともできる深く豊かな作品。
発行:INSCRIPT
発行年:2009年
サイズ:四六判
ページ:216P